参考資料

「森と木とむらに関する基本政策」12の提言

平成12年10月

財団法人  森とむらの会
会長   高 木 文 雄

 



最近、政府におきまして、林業基本法、森林法等の抜本的改正を含む林政の見直し作業が進められていると聞き及んでおります。私ども森とむらの会は、創立以来、一貫して「森林を木材生産の場としてだけでなく、地球環境、国土保全、教育・文化など広い視野から見直して、山村の再生・復権を図る」よう主張してまいりました。私どものこのような考え方が、新しい林政の基本方向に、盛り込まれることを念願いたしております。

 そこで、私ども会員等の意見を集約しまして、以下のような具体的な「提言」をしたいと思います。新しい林政の基本方向策定に際し、参考にしていただければ幸せです。

なお、新たな基本法案の策定を含め新しい林政の基本方向を定めるに当たっては、広く国民各層の意見を聞くことが肝要だと考えます。全国各地で公聴会等を開催するなど、森林や林業、木材産業、山村に関心を持つ国民の声を広く聞く機械を設け、この議論を通じて国民の理解と協力を一層深める契機とするよう要望します。





 

提言1.新たな「森と木とむらに関する基本政策」の確率

 

新たな林政は、森林、林業、木材産業、山村に関する政策を一括して総合的に捉えるべきで、新たな基本政策は「森と木とむらに関する基本政策」とするよう提案する。(ここに言う{森}は「森林」を、「木」は「林業及び木材(産業)」を、「むら」は「山村」を意味するものとする。)

(1) 森林は国民(人類)共通の財産であり、国民の参加により森林を健全な状態に整備・管理し、緑豊かな国土を次世代に継承していく責務がわれわれに課せられている。そのため、国の責任において、国産材の利用拡大に全力を注ぐことによって活力ある山村と林業活動の活性化を回復し、安全な国土と健全な森林生態系を保持するとともに、多様な機能の持続的発揮を図り、循環型社会の形成に寄与することが、新しい基本政策の課題である。

(2) 「森と木とむらに関する基本政策」の理念・目的は、現行の産業的視点(林業基本法…木材総生産の増大、生産性向上、従事者の所得向上)及び、

資源的視点(森林法…森林の保続・培養、生産力の増進、森林計画、保安林等による規制)に加えて、

環境的視点(温暖化等地球規模の環境問題への対応、熱帯雨林等の減少への配慮、生物多様性の保全、再生可能な資源としての木材利用など)

国土保全的視点(水資源の涵養、山地災害防止、生活環境保全など公益的機能の持続的発揮)

文化的視点(教育、保健、休養的利用など)

地域振興的視点(森林・林業の成立基盤としての山村対策、山村居住者の福祉・所得補償など)

を明確にし、これらを総合的に推進するものとすべきである。

(3) 新たな基本法においては、森林・林業・山村政策について、国の責務、地方公共団体の責務、国民(自然人と法人)の責務を、それぞれ明確にうたうべきである。また、国の責務としては、政策推進主体としての国の責務と、国及び国民の貴重な財産である国有林の経営主体としての国の責務を区分して明らかにするとともに、後者においては、流域内での民有林との協調、役割分担について、明確に定めるべきである。

 

提言2.炭素税の導入による森林整備のための財源の充実

  (1) 国民共通の財産である森林を整備するためには、後述する公的管理をはじめ莫大な財政支出が必要となるが、その財源としては、現在、政府税制調査会や運輸政策審議会等で論議されている「炭素税(環境税)」の導入が望ましい。「炭素税」による税収は一般財源に充て、その一定割合を森林を保全するための財源として確保するべきである。

(2) あわせて、流域ごとに上下流市町村の合意による水源林保全のための応益分担の仕組みを広げ、これを国も支援すべきである。

 

提言3.森林の公的管理の推進

   木材価格の低迷や山村の高齢化、相続税による山林所有の分散などを背景に、森林所有者が林業への意欲をなくし、その最低限の保全管理さえも放棄せざるを得ない森林が増大している。これを放置すれば、森林の公益的機能の維持が困難になるなど、由々しき事態を招くことは目に見えている。

(1) このような管理が十分でなく、公益的機能を発揮できない森林の管理については、関係機関との協議に基づく市町村長の指定により、それぞれの状況に応じて、国、公団、公社、地方公共団体、第3セクター等の公有化を含む公的管理に移す。後述する森林計画の中で、不在村者所有森林や荒廃・放置森林についての整備・管理方策を定め、里山や入会林野に対しても整備・保全計画を定める。

(2) 特に流域を単位として、圏内の市町村・森林組合・農協・民間企業等の出資により荒廃・放置森林等を管理する第3セクター(宮崎県耳川流域で計画されている「国土保全担い手機構」など)を国が積極的に支援すべきである。

(3) 森林の管理については地方公共団体が主体的役割を果たすべきである。このため、地方公共団体への交付税措置の拡充を図る。

 

提言4.森林計画の抜本的改革

   現行森林法による森林計画は、木材供給を計画的に確保するための資源管理計画であり、「上から下へ」の計画体系のため、莫大な人員、費用、期間を要しているにもかかわらず、現実の実績やあるべき姿と大きく乖離している。この現状を総点検し、市町村→都道府県→全国へと「下から上へ」の計画体系に改めるとともに、効率化、簡略化、人員再配置などを図る。その際、以下の点を重視すべきである。

(1) 森林計画作成の圏域(流域、市町村)内の多様な主体(地方自治体、林業事業体、林業労働者、森林の受益者、NPO、NGO等)の参画を義務づける。

(2) 現行森林計画で欠落している分野(多面的機能の発揮、生物多様性の保全、保健休養・教育的利用など)についても整備目標を定める。

(3) 森林計画の作成にあたっては、土地利用計画、国土利用計画、環境基本計画等との整合性を図るとともに、無間伐施業・低コスト施業をはじめ伐期の多様化など森林整備手法については、地域の独自性を認めることが必要である。

(4) 森林計画作成の際、国有林計画との調整、協力関係を明確にする。

(5) 森林計画を単なる計画に終わらせることなく、その実行性を確保するため、計画と実績との乖離に対する是正措置が必要である。

 

提言5.里山の保全と整備

   都市近郊の里山(平地林、雑木林)や、山村集落に隣接した里山は、かっては人々の日常生活・生産活動と密接に結びつき、また多様な動植物との共生の場として、普遍的な存在であった。ところが、エネルギー革命による薪炭林需要の衰退や無秩序な乱開発などの影響を受け、また行政の谷間にあったため、保全のための施策は十分に行なわれてこなかった。このため、放置され手入れが行き届かない里山が増え、ゴミの放棄地や産業廃棄物焼却場などとなって消滅したり、無惨な姿をさらしている所が多くなっている。

 しかし、生物多様性の確保や、循環型農林業の持続のため、また都市住民及び地域住民の生活・休養・体験・交流のための空間として、里山の重要性が改めて見直され始めている。里山の保全と整備について緊急な対応措置を講ずべきである。

(1) 里山の放置・乱開発を防ぎ、保全・整備を推進するため、各省庁が協力し、国全体としての里山対策を確立すべきである。

(2) 里山について、保安林制度に準ずる措置、農地の相続税猶予制度に準ずる特別措置など新たな保全対策を創設する。

(3) 先に述べた森林の公的管理の適用や、森林計画の中での里山に関する計画策定など、里山の保全・整備を計画的に推進する。

 

提言6.森林に対する国民の理解と協力の推進

  (1) 長期にわたって低迷している林業・木材生産活動を活性化させるためには、木材 要の拡大が急務である。このため、国産木材による木造住宅や木材製品のすばらしさについての啓発・普及活動を促進し、国産木材を積極的に利用することによって持続的森林経営が維持され、地球環境が保全されることの意味を徹底して、国民的な「木を使う運動」を展開する。

(2) 中教審答申や文部省の新教育プログラムにみられるように、森林は青少年の環境教育・体験教育の場として最適である。「環境の世紀」を迎えるに当たって、小中学校、高校においては農林水産体験などの環境教育を必修とし、「山」そのものを教育の重要な場と位置づけ、森林環境教育を通じて、生命の尊さ、自然との共生の大事さを学ばせるべきである。そのための施設、教員・インストラクター等の要請、カリキュラム等を充実する。森林の多面的機能を周知、実感できる施設を都市部にも設置する。また、流域ごとに当該地域の森林の多面的機能が実感できる施設を整備する。このため、流域ごとに森林の多面的機能の実証研究を進める。

(3) 全国で増大しつつある森林ボランティア活動は、国民の森林への理解を深めるとともに、新たな労働力確保の足がかりとしても重要な役割を果たしている。森林ボランティアを森林政策の中に明確に位置づけたうえ、これを積極的に育成するとともに受け入れる条件を整備する。

 

提言7.森林管理を担う経営主体

   林業は、国土のかたちをつくる基本的な営みであり、森林の公益的機能を発揮するためには欠かせない存在である。また、循環型社会の形成に寄与する木材の供給源であり、山村振興の重要な分野を担うという重要な役割を持っている。

(1) 森林管理・林業を担う経営主体は、大規模林業家、地域の林業者等による共同出資会社、森林組合、第3セクター、公的機関等、地域の実情に応じて多様であるべきである。

(2) 個別林家で自立しうるのは極めて少なく、育林部門のみで安定した経営を持続させるのは困難である。半面、森林資源は人工林を中心に成熟しつつあり、中小零細林家は山村集落の活力にとって重要な役割を担っていることにかんがみ、これらに対する対策を講ずる必要がある。

(3) このため、分収造林、分収育林、施業または経営の受委託(信託)などによって、森林(林地)の所有と経営の分離を促進する。その場合、受託者である公的機関(公社、第3セクター)や森林組合、意欲と能力のある事業体への支援措置が必要である。

(4) 今後は技術革新によるコストダウンの可能性を持つ素材生産、木材加工部門と育林部門を垂直的に統合した事業体(いわば林業コンプレックス:複合体)を育成する必要がある。

(5) 拡大造林推進を前提として活動してきた都道府県等の造林公社は、現在、初期の目的とは大きく離れた状況に陥っており、経営上も多くの問題を抱えている。しかし、有能な技術者を多数擁しており、これらの技術者集団を新しい時代に沿って、有効に活用する方策を検討すべきである。

 

提言8.森林組合の改革

  (1) 森林組合の現状は総じて弱体であり、森林組合にのみ過大な期待を寄せることはできないが、零細・小規模林家からの施業・経営受委託の促進と、企業マインドの強い素材生産事業体との結合を通じて、さらに市町村行政との連携を基盤として、林業の主要な担い手として育成する必要がある。

(2) 森林組合における経営管理体制の確立・強化、経営の合理化・効率化を進めるため、国及び都道府県の強力な指導により、流域単位あるいは1県1組織などの大型合併を図るべきである。

(3) 森林組合を森林の公益的機能を発揮する森林管理の担い手として特定することも考えられるが、その場合は公益法人化し、国がその公益活動を助成する。

(4) 森林組合と農業協同組合などとの提携・統合をタブー視すべきではない。地域の実情に応じて、可能なところから選択的に推進する道を開くべきである。上記、公益法人化した場合は、協同組合的経済活動は農協に統合し、あるいは農林協同組合に再編成して、森林組合は一般経済活動とは分離した公益活動に特定する。

 

提言9.林業従事者の確保と相続税の負担軽減

  (1) 林業の施業・作業だけでなく、自然生態系も分かる質の高い森林管理労働力を確保する必要がある。こうした優れた林業従事者の確保のために、雇用する事業体の体質強化、労働環境の改善(近代的雇用関係の形成、技術の改良、研修の充実など)により、基幹的従事者を養成するとともに、都市住民や学卒者などが新たに林業に従事する新規参入の促進を図る。

(2) 過重な相続税の負担が林業経営を圧迫し、森林(林地)の売却・転用、所有の分散(不在村所有者の増大)を招くなど、森林の荒廃に輪をかけている。相続税のあり方について、現在の木材価格の低迷等を反映した抜本的な再検討を行なうべきである。(この問題については別途提言する。)

 

提言10. 木材自給率向上に向けた取り組み

   我が国の森林資源は、第二次大戦後に造林された約1,000haに及ぶ人工林を中心に次第に成熟し、量的には増大しつつあるものの、木材貿易自由化の推進等により木材需要の太宗は輸入木材に奪われ、国内の木材生産活動は長期低迷を続け、木材自給率は20%にまで低下している。このことは、森林資源の培養による環境保全を困難にするとともに、木材輸入の拡大により熱帯雨林をはじめ世界の森林破壊をも促進している。したがって、木材自給率の向上を図ることは、我が国の環境保全だけでなく、地球的規模での森林の持続に貢献することになる。

(1) 低迷している国産材の利用促進、需要拡大を強力に進めることが木材自給率の向上に資する道である。このため、新たな基本政策においては、木材自給率の目標設定についても検討することとし、その目標設定にあたっては、我が国の森林資源が可能な限り効果的に利用されることを第一義とすべきである。

(2) 自給率目標の数値については、地球温暖化防止京都会議で採択された我が国の二酸化炭素削減目標(2008年から2012年の平均排出量を1990年比6%削減)における森林の分担(定量的因果関係)等も勘案する。

(3) 次期WTO林産物交渉においては、我が国の森林の置かれている状況を明確に説明し、地球環境維持のためにも木材貿易のこれ以上の自由化をすべきでないことを強く訴えるべきである。特に「持続可能な森林経営」は世界的な共通認識であるから、「持続的でない森林から生産された木材の輸出(及び輸入)を禁止する」ことについて合意するよう強く主張すべきである。

(4) 現行林業基本法に基づく「重要な林産物の需要及び供給に関する長期見通し」を単なる「予測値」見通しでなく、政策的に追求すべき「目標値」に改める。

 

提言11.木材資源の総合的需要拡大と加工・流通の合理化

   木材産業は、林業活動の活性化を通じて森林資源の多様な機能の持続的発揮に貢献し、また循環型社会の構築に直接寄与する環境共生型資源としての木材を供給する役割を持った特殊な中小企業であることを念頭に置き、施策を行なうべきである。また、木材の大口需要者である住宅産業や製紙産業の役割も重要である。

(1) 国産木材の需要拡大は、我が国の森林資源の培養と林業活動の活性化に直接寄与する。このため、国、地方公共団体、森林・林業・木材関係者はもとより、都市住民を含めて木材需要拡大の一大キャンペーンを展開する。

(2) 木材の生産・加工・流通が合理的、効率的に展開するための条件整備(企業間競争、協業化、育林部門との協定、技術革新、従事者の確保など)を推進する。

(3) 原木供給者(林業サイド)と原木消費者(加工サイド)との協定、取引規模の拡大(共同出荷)、効率的流通システムの確立により、木材流通を合理化する。

(4) 環境共生型資材である木材の利用を推進するため、公共建造物、公共土木工事などでの国産木材の使用を促進するとともに、木造住宅建築などへの税制・融資などの助成措置を講ずる。

(5) 資源循環型社会の構築に当たって森林資源は重要な要素となる。特にエネルギー政策の中では、有限の化石燃料や安全性の懸念が指摘されている原子力への依存から脱して、自然循環型で二酸化炭素の固定にも寄与するバイオマスエネルギーへの期待が高まっている。このため、バイオマスエネルギーの開発、実用化の研究、実用化を積極的に推進すべきである。

全国各地の森林地帯に実験地を設置し、小規模のバイオマス発電所、炭焼き工場などで、間伐材、伐採枝葉、木材加工屑、農業廃棄物などを活用して実用化を目指す。

 

提言12.山村対策の充実と直接支払いの導入

  (1) 新たな基本法では、既存の山村振興法の視点(格差・後進性の是正、水土保全機能の確保、伝承文化等の維持・振興、高齢者の福祉増進など)に加えて、山村は森林管理・国土保全・林業の担い手であり、存在基盤であるとの基本認識に立って、山村地域対策を講ずべきである。

(2) 「食料・農業・農村基本法」において中山間地域の農業者に対する直接支払い制度が導入されたが、この施策は農業生産における平場との格差是正を念頭に置いたもので、林業経営による森林管理や国土保全機能の維持等は対象とされていない。山村は多様な公益的機能を持つ森林の入口に当たり、山村住民は森林管理や農林業を営みながら、森林保全の防人の役割を果たしているが、林業の長期低迷や高齢化などで山村住民の定住は容易ではなく、健全な森林の保全による国土保全機能の維持が危ぶまれている。

このため、森林の公益的機能を維持し、持続可能な森林経営を行なっている林業家、森林組合、第3セクターなどに対し、人に着目した「直接支払い」を実施し、山村住民の定住を確保することは喫緊の課題である。

直接支払いの方法については、農業の場合と条件が異なるので、専門家の間で十分議論を尽くしたうえで決定する。